読書3

現代を生きる私たちは、本を信じすぎています。「本を読め」というのは出版業界の宣伝につられているからで本来、読書というものはそこまで重要ではないと私は考えています。

 プロ野球選手の新人で、コーチに殴られた新人がいました。彼は、高校時代スーパースターで、選手時代にたいした実績のないコーチをバカにして、コーチのいうことは聞かず、大リーグのトレーナーの肉体改造本や日本を代表する投手の著書ばかりを何冊も読んでいたそうです。

 でも、大リーグのトレーナーの肉体改造本なんて、アメリカでも売れる数はたかが知れていますから、トレーナーたちは本に自分のすべてを注ぎ込んで書いてはいないはずなのです。あくまで「僕はこういう考え方で肉体改造のトレーナーをするから、雇ってね」という大リーグ球団や大リーガーへのアピールが目的の本なのです。もし自分のすべてを注ぎ込んでその本をかいたら、大リーグの球団はわざわざ彼を雇わなくてもよくなり、彼は生活できなくなってしまいます。

 日本を代表する投手の著作にしたって、彼はすでに球団から給料はたっぷりいただいていますから、彼の書く本というものは、年末のディナーショーにくるお客さんを増やしたいとか、自分の野球スクールを宣伝して、そこで働く親族を楽にしたいとか、TV局のプロデューサーにPRして引退後の解説者の枠を確保したいなどの目的で書いているのです。そのため読者に好感をもってもらうための思い出話が中心(学生時代は練習が大変だったけどがんばった、親は貧乏だったけど一生懸命僕を育ててくれた、○○選手との対決は燃えたなど)で、彼がなぜ大投手たりえたかの秘密なんて何も書いてないのです。

 そんなパンフレットやエッセイ程度の本を「大リーグのトレーナー」「日本を代表する投手」という肩書きだけで妄信して読みふけってしまい、目の前の自分のコーチが一生懸命全力を尽くして手取り足取り教えてくれていることは「あなた現役のときの成績よくないよね」と無視していたのです。

 彼はそのために数年は一軍と二軍の間をうろうろしていたのですが、ある日突然目覚め、寮の自分の部屋にある野球に関する本を全て捨てて、球団のコーチの言うことを聞くようになったといいます。
 その後、安定して一軍で活躍できるようになりました。

 もし彼が本の中にだけ存在する「空想のすごい先生」より目の前にいる「現実のコーチ」を大切にするということを知っていればもっとはやく活躍できたのにと思います。

 彼におきたことは、ありとあらゆる仕事にあてはまるかと思います。私たちは本を信じすぎている。しかし本に書かれた世界は空想の世界であり、現実に私たちが立ち向かう世界とは異なります。