読書

仕事についての本を読むほど、目の前のお客様から離れていきます。本を読め、と若いころよく言われましたが、自分は社会に出たら、小説のような娯楽作品や、職業能力開発校の教科書のようなものを除いて、本をたくさん読む必要はないと思っています。


 あなたが左官で一人前になりたいとします。本屋の建築コーナーにはたくさんの本がならんでいます。そしてあなたは左官の本を手に取ります。
 大体学者が書く左官の本というものは大体同じようなものです。左官の歴史、古今東西の左官、鏝の焼き方とは。
 また、有名な左官がものすごい高等技術を駆使してつくった作品を写真集として出しているかもしれません。作品の美しさにあなたはびっくりするかもしれません。
 仕事から帰ってきた後、一生懸命にそういう左官の書物を読んで勉強するのです。

 ちょっとまってください。その知識、あなたの左官としての人生に必要ですか?
 学者でもないのに、あなたが左官の歴史とか古今東西の左官とか鏝の焼き方とか一生懸命勉強して、お客さまは喜びますか?名人と呼ばれるような人の技(大津磨きやイタリア磨きなど)をまねして、お客様はよろこびますか?

 お客様はあなたに、ただ目の前のモルタル壁をきれいに仕上げてほしいだけなのです。別にあなたがイタリアの左官の歴史について知識があるとか、大津磨きができようがそんなのどうでもいいのです。
 目の前のモルタル壁をきれいに仕上げることがしっかりできれば、信用が増し、仕事が増えます。職人として向上心があるなら、目の前のことから学べばいいのです。もっと早く、もっと美しく、もっと安全に。一日の終わりに振り返って翌日からまた改善していけばいい。 
 現在の状況と関係ない本を読む時間があったら、現在の仕事の中でもっときれいな養生、もっと早い段取り、もっときれいな後片付けを追及したほうがはるかに本を読むより大切です。

 現在の目の前の状況と関係ない本は職人の向上心をあさっての方向に向けてしまいます。