コミュニケーション

コミュニケーションについて書いてみましょう。若手の方が引っかかりやすいポイントです。新入社員は、上司に「営業はおしゃべりが仕事なんだから、話し上手でなければならないよ。テレビに出ているような人物を参考にしなさい。私も若いころ、落語家のテープを何度も聴いて営業の参考にしたんだよ」といわれることがあるかもしれません。


 それで、新入社員は毎晩、ビートたけしやダウンタウンのような人気コメディアンのトークを研究します。ところが、営業現場でコメディアンを研究した成果で、お客様に「くすっ」と笑ってもらえても、一向に契約はとれません。なぜでしょう。

 お笑い芸人のトークとビジネスの真剣なコミュニケーションはまったく違うものなのです。
 お笑い芸人のトークは「話芸」です。ビジネスでたとえるなら、名刺交換のときに火を噴いたりハトを出すようなものです。話題になりますし、お金を払ってもそれをみたいという人がいるかもしれません。実際にコメディアンはそれで、普通の人では稼げないようなとてつもない大金を稼ぐのです。

 でも、医者があなたに胃がんについて説明するときに「コマネチ」とかやったらどう思いますか?消防所長が死傷者が出たビルの火災について記者会見を行ったときに、記者に「なんでやねん」と頭にツッコミいれたらどう思いますか?横浜市営地下鉄の駅長がテロリスト対策について警察や自衛隊の代表者と会議を開いているときにかぶりものをかぶってきたらどう思いますか?

 わかりやすくするために、ビジネスとはまた違う分野の重要な職業を例にたとえましたが、ビジネスもこれと同じです。病院の設計の打ち合わせや、消防署に消防車の納品に行くときや、地下鉄に新車両の納入の打ち合わせにいくときに、「話芸」なんかいらないんです。「真剣なコミュニケーション」が望まれているのです。

 滝川クリステルは東京オリンピックのプレゼンテーションで、話芸はしていないですね。真剣なコミュニケーションをしています。スティーブジョブスもiPhoneの発表会で話芸はしていません。真剣なコミュニケーションをしています。
 
 お笑い芸人でも、スポンサーとCMについて打ち合わせしているときは、面白いことなんか一切言わないはずなんです。「真剣なコミュニケーション」をしているはずなんです。このリンク先の2分50秒で、今田耕司はスポンサーの社長に冗談ひとついいません。やや緊張した態度で、丁重に接しています。

 「営業がおしゃべりがうまくないといけないよ」まったくもってその通りです。営業マンはわかりやすい説明を心がけなければなりません。
 ただし、指導する上司は「話芸」と「真剣なコミュニケーション」の区別をしっかりつけて新入社員に指導しなければなりません。